3×4.5cmの小型センサで高齢者の転倒検知 柴和彰さん@青山学院大学 栗原研究室 インタビュー

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『マイクロ波ドップラセンサによる高齢者の転倒検知』
研究インタビュー 青山学院大学 相模原キャンパス 理工学部栗原研究室 '17 8/29 14:00

  • 研究室に入られたきっかけは?

  • 3年生の最初に、経営システム工学科の全研究室を回る機会がありました。その時に、栗原研究室では、プログラミングだけでなく、実際にセンサを用いたシステム開発であったり、もの作りを行っていたりしており、他の研究室とは違った魅力を感じ志望しました。

  • 経営システム学科を志したきっかけは何でしたか。

  • プログラミングそのものよりも、プログラミング等の技術を用いて、どのように社会や経営に活かせるかを学びたいと思い、経営システム工学科を志望しました。

  • 学部のカリキュラム構成はどのようになっているんですか?

  • 経営システム工学科では、分析技術分野、モデル化技術分野、最適化技術分野の3つの分野を基礎としたカリキュラム構成になっています。

  • モデル化技術分野は、熊谷先生、松本先生、栗原が担当しており、今回の次世代Well-Beingは、モデル化技術分野がコアメンバーとして参画しています。

  • 学科を志望したときと、実際に研究を行っている現在とで、意識の違いはありますか?

  • 学科を志望したときは、社会ニーズにたいし、センサや信号処理を活用しソリューションを提供するような応用的研究にはあまり興味がありませんでしたが、授業やゼミなどを通して興味を持つようになりました。また、実際に研究室に所属し研究を行っていく中で、他の社会ニーズなどにも目が向くようになりました。

  • 応用的研究の魅力とは?

  • 自分で開発したセンシング機器や信号処理のシステムを用いて、高齢者を支援できるシステムを構築し、社会貢献の一端を担えたと実感できることが魅力です。

  • 研究の中で対象が人間というのはどうですか。

  • 同じ被験者でも、日によってセンサからの出力パターンが違うなど、人を対象とすると個人差および個体内差が大きく、規則性を把握しづらいという点が大変です。その分、様々な議論や検討を繰り返し、成功したときの達成感は大きいです。

  • 今まではどんな研究をなさっていたんですか。

  • 学部生4年次の卒業研究では、高齢者の徘徊を検知するというシステムの構築を行っていました。この研究もマイクロ波ドップラーセンサを用いたもので、夜間の徘徊を対象とし、人が所定の部屋にいるかいないかを検知するシステムです。夜間に寝ている状態からいきなり人がいなくなった場合は、徘徊と判定します。

  • 高齢者の転倒を取り上げようと思った理由は何かありますか。

  • 学部4年の時にマイクロ波ドップラセンサを持ち込んだ企業があり、 その企業の人と話しているうちに高齢者の転倒というテーマが出てきて、研究してみたいと思いました。学部4年生の時は、高齢者の徘徊を検知する研究に取り組んでいたので、転倒というテーマは修士課程1年から始め、現在まで続けています。

  • 具体的にはどうやって転倒を判定するのですか?

  • 転倒は、歩行などの速度が遅い運動から、「つまづき」等で一気に転ぶという速度が早い運動へ推移する状態推移として考えられます。したがって、転倒するときの、速度成分を周波数分析し、そのダイナミクスを考慮したモデルを構築することで、転倒しているかどうかを判定しています。ただし、ゆっくり転倒するような場合では、他の動作と区別できない場合があり、現在の検討課題となっています。

  • 周波数から速度を計算する方法は?

  • マイクロ波ドップラーセンサは、速度に比例した周波数成分を出力します。得られた信号からドップラー周波数に関する式をもとに速度を再計算することも可能ですが、今回の判定手法では、周波数成分の情報をそのまま活用し特徴量を計算しています。

  • 転倒のモデルとは。

  • 今回、ウェーブレット変換と隠れマルコフモデルをドップラーの出力信号に適用することで、周波数のダイナミクスを取り入れたモデルを構築しています。転倒を転倒前、転倒中、転倒後の状態に分け、その状態が一致した際に転倒と判定します。

  • 転倒の判別率はどの程度でしょうか?

  • 現在、隠れマルコフモデルを用いることで、転倒の判別率は95%程度まで向上しました。判別にかかる処理時間も2秒程度で判定できます。

  • 転倒検知に関して難しかった点はどこですか?

  • センサで計測した信号にはノイズが含まれているため、必ずしも正しい値が得られるわけではありません。そのため、研究を始めた頃は、転倒なのか、座ったのか、下方向に動く動作なのかの判別ができませんでした。ノイズにロバストな特徴量をどのように選定するかが、難しかった点です。

  • どのようなセンサを使用していますか?

  • マイクロ波ドップラーセンサを用いています。このセンサは、マイクロ波を照射して、計測対象の照射方向への速度を計測することができます。転倒検知には、さまざまな方式が検討されており、加速度センサを埋め込んだ腕時計型のセンサなどがあります。腕時計型のセンサでは、身に着けて自由に持ち運べる分、バッテリーの充電などを定期的に行う必要があります。マイクロ波ドップラーセンサを用いた方式では、計測する環境に設置するため、バッテリーを充電必要は、ありませんが屋外などでは、使用することができません。それぞれの方式にメリット、デメリットがあり、それらを理解し使い分けることが重要だと思います。

  • センサの大きさはどのぐらいですか。

  • センサ本体の大きさは、3cm×4.5cm (写真参考)ぐらいです。センサからの出力は、信号処理用の回路に繋っています。センサ本体も安く購入することができ、一つ1500円ぐらいです。

  • 一部屋に、何台くらい設置すれば、よいのでしょうか。

  • 1台のセンサを天井に設置して 2m×2mの範囲を計測できます。従って、8畳くらいの部屋では、5台程度設置する必要があります。ただ、トイレや、浴室など、比較的狭い場所への設置であれば、1台で十分だと思います。

  • マイクロ波ドップラーセンサは他の用途にも使えるのでしょうか。

  • 私の学部時代の研究のように、徘徊検知のための人の在不在判定に用いたり、様々な用途に使えると思います。昨年度の学部生の研究では、脈拍を計測するというのもありました。また、炎天下の駐車場で、自動車内に幼児を置き去りにしてしまい熱中症になってしまう事故がありますが、そのような事故防止のために、マイクロ波ドップラーセンサを用いて、車の中の人を検知するという研究も昨年度行われていました。

  • 今後の課題は何かありますか。

  • 海外の文献でも、様々な日常動作の中から、転倒を判定しようとしているものもありますので、今後の課題としては、同様により多様な動作の中から、高精度に転倒を判定できるシステムの構築だと思います。

  • 実用化できそうですか。

  • 大前の、Q&Aとも関係するのですが、転倒に類似した動作といかに区別するかが課題であり、これらの課題がクリアできれば、実用化はできると思います。あとは、実際の現場で刻一刻と収集されるデータを解析し、判別のアルゴリズムに逐次取り込む機能をシステムに実装することが重要だと思います。

  • 大学院修了後の進路は、どのようにお考えですか?

  • ヘルスケアメーカーの開発職への就職が決まっています。検査機器や医療装置などの開発に携わっていきたいと考えています。その中でも特に、プログラム開発やシステム開発に興味があります。

  • ヘルスケアメーカーを志望した理由は何ですか?

  • この研究室で、学部、大学院と高齢者を対象としたシステムの構築を行ってきました。その経験を活かしたいと考えました。

  • 同じ学科の人はどんなところに就職することが多いですか。

  • メーカーやシステムエンジニア、金融業界に就職するという人もいます。 他にも百貨店など、就職先は本当に幅広いです。選択肢の幅は広いと思いますので、学科に入ってから十分考え、進路を決定できると思います。 修士過程を修了すると、IT業界か、経営コンサルタントを志望する人が多いと思います。

  • これから当学に進学したい高校生の皆さんに一言。

  • 受験勉強を頑張ってください。 経営システム工学科は、幅広い分野を学ぶことができるので、視野が広がります。

栗原先生から一言

・・・・・
社会問題に直結する研究対象と課題や困難を乗り越える経験

高齢社会では、社会保障費の増大、介護負担の増大、生産年齢人口の減少など様々な問題が起こり、日本だけでなく世界的な問題として認識されています。高齢者が安全で安心して生活するためには、行政による医療福祉の制度の整備だけでなく、産業、学術研究による科学技術的な支援が重要な位置づけとなっており、産官学が連携して取り組むべき課題となっています。本研究室では、センシング技術、信号処理を活用したシステム応用に関する研究を行っており、その一環として高齢社会にたいする技術的な支援を行うためのシステムの開発に取り組んでいます。

 現在、柴君が研究している転倒検知システムも高齢者への技術的な支援を行うためのシステムの一つです。独居高齢者において、転倒により骨折し動けなくなってしまったり、気を失ってしまったりすると、発見が遅れてしまい様々な後遺症が起こる場合があります。特に冬場では、浴室と脱衣所の温度差により倒れる事故が多くあります。このような状況を防止するため、高齢者が転倒しないかを見守り、転倒した際には、介護者や、医療機関に自動的に通知するシステムを開発しています。柴君が行っている研究では、マイクロウェーブドップラーセンサを用いて転倒を計測しています。最初は、人間の動作が対象ということもあり、転倒の検出率は高くありませんでしたが、柴君自身が試行錯誤し改良を加えていくことで、現在は、比較的高い検出率で転倒を検出することができます。

 学生の皆さんには、在学中から、このような社会問題に直結する研究を対象とし、その研究目的を遂行するうえでの課題や困難を乗り越える経験を通して成長してもらえればと思います。

栗原研究室 研究紹介

Keywords: システム工学,センシング工学、システム,センサ,モデリング,生体情報
Themes: 計測技術、信号処理技術を活用したシステム構築に関する研究を行っています。特定の分野に限定せず、社会ニーズに応じて幅広い分野を対象としています。
Applications: 介護支援システム、セキュリティ/災害検知システム、人間のスキル、機能(作業、スポーツ、脳活動 等)評価システム、環境評価(建築、環境雑音 等)システム、故障診断など
Collaborative Research:
応用開発 実証研究 評価
・各種分野における計測システム、評価システムの開発
  • 睡眠の質の推定に関する実証研究

    栗原研では睡眠の質を推定する方法を研究している。
    睡眠の質に影響がありそうな要因、心拍・呼吸・いびき・寝返りなどを計測し、睡眠の質を推定する方法を開発した。
    この推定された睡眠の質と主観的な睡眠の質を比較するフィールドテストを行いたい。
    実験機械・設備: 布団やマットの下に敷くセンサ。対象者: 一般男女。

  • 睡眠時におけるの呼吸停止状態に関する実証研究

    上記と同様のセンサで無呼吸症候群を計測する。
    無呼吸症候群が検知された場合には本人や関係者に知らせるなどの対応を行う。
    実験機械・設備: 布団やマットの下に敷くセンサ。対象者: 無呼吸症候群が疑われる男女。

  • 高齢者の転倒検知に関する実証研究

    部屋の天井に 3×4.5cmのセンサを配置し、人物(高齢者)の転倒を検知する。
    現在、判別率 95%以上という実験結果になっており、
    これをフィールドテストしたい。
    転倒が検知された場合には関係者に知らせるなどの対応を行う。
    実験機械・設備: 天井に設置するセンサ(2m x 2m)の範囲を計測可能。
    対象者: 高齢者等

  • 機械の故障検知

    接触型、非接触型のセンサを活用し、機械の故障検知を実現する。
    話題になっている IoTの一方法。
    実験機械・設備: 各種センサ。対象者: 製造業等、機械の稼働率が重要な産業。

など

・寝具の評価
・雑音、振動評価
・企業が開発した製品の性能の評価
・分光の評価
など

本研究室では、システム工学において重要な要素技術であるセンシング技術、信号処理技術を活用したシステム構築に関する研究を行っています。「次世代Well-Being」の応用分野である(1) 健康福祉分野に関する研究、(2) 知識教育分野に関する研究、(3) 技能研修分野に関する研究、(4) 環境評価に関する研究 に関連する研究としては、それぞれ以下のような研究を行っています。

健康福祉分野

健康福祉分野に関する研究では、在宅環境において心拍、呼吸、体動、イビキ、咳、掻破などの生体情報を、体にセンサを設置せずに計測するセンシング技術を開発し、これらの生体情報から、睡眠段階の推定、不整脈、睡眠時無呼吸の検出、皮膚の掻破の検出などを行っています。また、独居高齢者の転倒の自動検出や、排尿時刻予測のための膀胱内蓄尿量の推定システム、誤嚥防止のための食塊の粘性判別システムの構築など介護支援のための研究を行っています。

無拘束生体計測の例: ベッドマットの下に設置されたセンサにより、無拘束で、 心拍、呼吸などの生体情報を計測し、呼吸の停止の検出や、睡眠段階の推定を行う。

研究テーマ

  • 生体情報の無拘束モニタリングシステム
  • 睡眠時無呼吸検出
  • 睡眠段階の推定
  • 無拘束での血圧推定
  • 掻破時間計測システム
  • 嚥下機能評価システム
  • 高齢者の転倒検知
  • 蓄尿量予測システム
  • 広域前頭葉脳活動データを用いた不安状態の推定
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知識教育分野

知識教育分野では、言語の違い、もしくは言語習熟度の違いによる脳活動の働きを脳血流量の観点からネットワーク構造とし推定することで、言語学習の評価に役立てるシステムの開発を行っています。また、記憶の想起過程において、対象者が言語的に想起しているか、非言語的に想起しているかを判別することで、効果的な教材や、広告手法の選定をするための手法の開発を行っています。

知識教育分野における研究事例:  言語リスニング時の前頭葉の脳血流量を計測することで、言語処理情報の伝達構造を脳血流ネットワーク構造として可視化する。上記の図2は、母国語である日本語および習得中の第二言語である英語の脳血流量ネットワーク構造の違いを表している。

研究テーマ

  • 言語習熟度の違いにおける 脳血流量ネットワーク構造推定
  • 記憶の想起過程における 言語記憶・非言語記憶の判別
  • 生体情報を用いた多岐選択問題解答時における確信度の推定
  • 近赤外分光法を用いた色聴感覚優位性の判別
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技能研修分野

技能研修分野では、技能研修に必要な動作の計測システムの開発に取り組んでおり、高速に動作するスポーツにおける動作計測システムの開発を行っています。特に、ゴルフスイング時におけるインパクトの瞬間のクラブヘッドの軌跡や、ボールのバックスピンを10万frames/sの高時間分解能で計測するシステムの構築に取り組んでいます。

技能研修分野における研究事例:  ゴルフスイングのインパクト時における高時間分解能画像と、推定されたクラブフェイスの軌跡

研究テーマ

  • 高時間分解能 ゴルフスウィング軌跡推定法
  • ゴルフボール飛翔軌道推定のための 初期条件計測システム
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環境評価に関する研究

環境評価に関する研究では、在宅環境において使用されるLPガス使用時に廃棄される圧力エネルギーを電力として回収するエナジーハーベストシステムの開発、建設時における杭の掘削孔の形状評価に関する研究、高気密住宅における室内の負圧防止のための自動吸換気システムの開発などを行っています。

環境評価に関する研究事例: 家庭用LPガス使用時において、圧力調整器において出力圧力を減圧する際に排気される圧力エネルギーを電力として回収し、マイコンメータ等の補助電源として活用するシステムの開発。

研究テーマ

  • 言語習熟度の違いにおける 脳血流量ネットワーク構造推定
  • 記憶の想起過程における 言語記憶・非言語記憶の判別
  • 生体情報を用いた多岐選択問題解答時における確信度の推定
  • 近赤外分光法を用いた色聴感覚優位性の判別
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VR内の視線入力 フリック入力方式 村田さん@青山学院大学 小宮山研究室 インタビュー