ウェルビーイング情報技術(IT)とは? 関連コンセプトのマトメ

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ウェルビーイング情報技術(IT)を理解するには、関連するコンセプトの理解が近道である。本稿では、ウェルビーイング情報技術(IT)に先行する各種のコンセプトをまとめる。Ubiquitous Computingから始まり、様々なコンセプトの年代を見ると、発表されたのは10年~20年まであることが分かる。20年後に脚光を浴びる概念が今、発表されているかもしれない。



Ubiquitous Computing

「Ubiquitous」は「偏在する」という意味の単語である。Mark Weiser は、1991年に、ユビキタス・コンピューティングの概念を “The Computer for the 21st Century” という論文として発表した。論文には、「この技術は、識別できなくなるまで、それ自体を日常生活の中に織りこむ。」という一文がある。元々は、日常に溶け込み人間がそれと意識しなくても利用できる環境を想定していたようである。その後、Ubiquitous(偏在する)という言葉から、単に日常のあらゆる場所にコンピュータが存在するという概念との誤解が広がった。

初期の Ubiquitous Computing の実例として、Natalie Jeremijenkoの “Live Wire”(“Dangling String”)がある。これは、建物内のイーサネットに接続した紐を天井からぶら下げ、ネットワークの流量に応じて、紐が動くという仕掛けである。

写真: www.researchgate.net


以下は私見である。Ubiquitous(偏在する)とう概念は、我々の身の回りにコンピュータやデバイスがどう存在しているかを表現している。一方でその目的や用途については言葉からは想像できない。計算機器のあり方は、やはり用途によって決まるものであると考えられる。用途によっては日常に溶け込んでいる方が望ましい場合もあり、他の用途ではそれはそれとして存在していた方が使いやすい場合もある。例えば、電子メールを読む場合を考えてみると、生活の中に溶け込んだあらゆる機器で見られるのも良いが、視認性に優れた表示装置を持つもの、例えばスマートフォンやPCで読んだ方がしっくりくるのではないか。そう考えると、どんな用途で使われるかによって望ましい在り方も変わってくると考えられる。


Value Sensitive Design

VSD(Value Sensitive Design)は人間の価値に責任のある技術設計の方法論を提案している。1980年代後半に ワシントン大学でBatya Friedman と Peter Kahn が提唱した。価値として特に重視されている項目は、所有と財産、プライバシー、信用、ユーザビリティ、福祉、自律性である。VSDでは技術設計を3つの段階に分ける。

  • conceptual/概念的: まず技術に纏わる様々な利害関係者の理解と明確化を行い、その価値と利害関係者間の価値の競合を検討する。

  • empirical/経験的: この段階では前に挙げた利害関係者のそれぞれの反応をあらゆる方法で調査する。個々の利害関係者に留まらず、大規模な社会的な調査を行う場合もある。

  • technological/技術的: 人々がどのようにシステムを利用するか、或いは前段階で特定した価値にシステムがどう支援するかを検討する。


Affective Computing

Affective Computing は、1997年にMIT Media LabのRosalind Picard 教授が、著書「Affective Computing」において提唱したのが最初と言われている。感情についての研究、技術開発である。人の感情を認識、解釈、処理、模倣するシステムの開発が目的である。

Affective Computing は以下に内容が良くまとまっているので、それを参考にしてほしい。

ロボットや音声応答システム等、システムが人間を模して人間とのやり取りを行うシステムでは何らかしら相手の感情を理解する仕組みが必要と考えられる。世界のアフェクティブコンピューティング市場は2017年に161億7,000万米ドルと推定されている。

Affective Computingも、対象者の感情を検知し、何らかの形で応答するものと考えられる。従って対象者の感情検知方法と応答方法に課題がある。心理学で良く用いられる対象者への質問形式では煩雑感がある。例えば、スマートフォン内の仮想人格が毎朝、気分を訪ねてくるとしたら、大多数の人はめんどくささから「まあまあ」と答えるのではないだろうか。そこで、対象者の表情や声の質から感情を推測する方法が研究されている。また、脳波などの生理的な反応の研究も進んでいる。当プロジェクトでも、顔面皮膚温から対象者の感性を測定する研究心拍数からストレス感、リラックス感を計る研究がある。


Persuasive Technology

Persuasive Technology は直訳すると説得の技術となる。最近の言葉でいえば「行動変容」を促す技術である。同じ意味の言葉として「CAPTOLOGY: Computer As Persuasive. TechnOLOGY」がある。B. J. Fogg が1998年に「Persuasive computers」という論文を発表している。Persuasive Technology については以下の文献が良くまとまっている。

Halko と Kientz は研究を進め、説得戦略として4つのグループとそれぞれのグループで対照的な2つの戦略に分けられることを提案した。

  • Instruction style / 指示型
    • Authoritative 権威型: 厳しいトレーナが減量メニューを指示する。

    • Non-Authoritative 非権威型: 親近感があり、友達のようなトレーナが減量メニューを指示する。

  • Social feedback / 社会評価型
    • Cooperative 協調型: ユーザー同士でチームをつくらせ、一緒に目標を達成させるために努力させる。

    • Competitive 競合型: ユーザー同士で競争させ、勝利に向かって誘因する。

  • Motivation type / 動機付け型
    • Extrinsic 外発型: 目標達成時にユーザに報酬を与える。

    • Intrinsic 内発型: 目標達成時の良い状態をユーザに想像させる。

  • Reinforcement type / 強化型
    • Negative Reinforcement 否定的強化: 騒がしいビープ音を鳴らす。

    • Positive Reinforcement 肯定的強化: 心が高鳴るような音楽を鳴らす。


IoT

IoT(Internet of Things)は、1999年にケビン・アシュトンが初めて使ったと言われている。「モノのインターネット」と技術的に空虚な単語であるため、Buzzword(大手IT企業が顧客にIT投資を決意させるために用いられる技術的な内容のない言葉)と見られることもある。日本では総務省と経産省が珍しく共に推進している。

IoTの概念では、機械、モノ、環境、人の情報をセンサ等で収集し、クラウド上に蓄積し、解析を行い、アプリケーションに提供するというモデルを用いる。クラウド上のデータをBig Data、解析をAIとすると、IoT/BigData/AIという流行りの言葉が揃うことになる。

個人的な考えではあるが、IoTはやはり標準化を直ぐにでも進めるべきであろう。その際、通信の標準化よりもデータ形式の標準化が重要と考える。何故なら、センシング→データ保持、活用という3段階を考えた時に、同一の事業者で全て行うとは考えにくく、複数の事業者の連携が市場を急速に拡大するからである。加えて、特定の事業者が大きな力を持つ状況は望ましくない。例えば、Toyotaと日産の自動車から収集された情報をNTT Dataがホスティングし、複数の天気予報事業者が活用することを考えると、通信方法もさることながら、データ形式が一致していないと相互運用性が確保できない。逆にいうとこの課題が解消されると大きな展開がありそうである。

他にも、防犯であるとか、個人情報保護の観点も必要である。最終的に個人情報は個人に処分権があると思われ、一旦売った情報を後から個人が削除できる仕組みが必要であろう。これについては、総務省、経産省の資料に指摘がある。


Attentive User Interface

Attentive User Interfaceは、2003年にVertegaalが同名の論文を発表している。ユーザの Attention(注意) を取り扱う User Interface という意味である。例えば、どのタイミングでユーザに情報を知らせるか、情報の伝え方、情報の詳細度などを考察する。研究例として、救急救命等の差し迫った状態で働く人を想定し、視線により表示する情報の協調度合いを変えるというものがある。いかに集中力を持続させるかという観点ではウェルビーイング技術とも関係が深い。


Emotional Design

Emotional Design は、ドナルド・ノーマンが提唱した概念である。ノーマンは2004年に同名の著書を執筆している。 このコンセプトではデザイン・設計を3つの水準で考える。

  • 本能的 / 反応的

    見た目、手触り、音、外観、物理的な特徴。感情が想起される。

  • 習慣的 / 行動的 / 定型動作的

    性能、機能、使うことの喜びと効用。いわゆる狭義のユーザビリティ、使い勝手。

  • 内省的

    文化、自己イメージ、個人的満足感、想い出。個人的或いは文化的な背景に働きかける設計。例えば、日本でベンツに乗る人は、外観や使い勝手、性能を超えた何かをベンツに求めていると考えられる。


本能的なデザインだけが、人々を興奮させたり、リラックスさせたり、不安にさせたりできる。内省的レベルが最も持続性が高い。

以下に参考になりそうなWebページを記載した。


Personal Informatics

Personal Informatics は、個人的情報学と直訳できる。「quantified self / 定量化された自己」という洗練された雰囲気のある単語が使われることもある。「lifelog / ライフログ」という言葉も幅広く使われる。Personal Informaticsの概念がいつ発生したのかは調べ切れなかった。古くから「日記」というものがあるように、人間には役には立たなくても自己の記録を残したいという欲求があるようである。TwitterやSNS等では個人のランニングの記録など、他の人には価値がないような個人情報を投稿する人もおり、また、最近ではスマートウォッチ等から個人の生体情報を取得し、運動時の心拍などを記録しておくサービスも見かける。

Personal Informatics を個人としての内省支援や、システムからの有益な助言に結び付ける考え方もある。勿論、そうしたシステムに大きな可能性があるが、そうなっていなくても何らかのライフログを付ける人は多く、その行動原理は明らかになっていない。


Positive Computing

Positive Computingは、シドニー大学教授のラファエル・カルヴォとUXデザイナーのドリアン・ピーターズによる心理的ウェルビーイングと人間の潜在力を高めるテクノロジーの設計・開発についての概念である。同名の書籍が「ウェルビーイングの設計論 人がよりよく生きるための情報技術」として日本語訳されている。

Positive Computingでは、ウェルビーイングを向上させる要素として、個人的、社会的、超越的の3つの大枠から、更に細かく10個の要素に分けている。即ち、ポジティブ感情、動機付け&没頭、自己への気づき、マインドフルネス、心理的回復力、感謝、共感、思いやり、利他行動である。それぞれに理論的背景と評価尺度を記載された表が発表されている。


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ウェルビーイングとは?その状態についての様々な理論
Positive感情とは? Positive感情促進策、測定方法