ウェルビーイングとは?その状態についての様々な理論

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Summary



ウェルビーイング技術を実装するに当たり、ウェルビーイング状態を把握する必要がある。そこで、本稿では書籍『ウェルビーイングの設計論』(ラファエル・A・カルヴォ, ドリアン・ピーターズ著 ; 木村千里 [ほか] 訳; BNN新社, 2017.1)を元に、各理論を概覧する。


医学的モデル

ウェルビーイング状態としてまず考えられるのは、病気ではない状態ということである。即ち、イルビーイングの反対の状態である。医療の方法論は、治療(悪要因を除去する)、予防(危険要因を避ける)、促進(保護要因を増加させる)という3つの手法に分けて考えられる。医学モデルは主に治療と予防に関して有効であるが、促進という面でも参考になる場合がある。

フェリシア・ハパートとティモシー・ソーは、精神疾患の反対がウェルビーイング状態であると考え、国際的な疾病分類から精神疾患に当たる症状を抽出し、それと反対の状態、例えば楽観性、没頭、ポジティブ感情に注目した。この研究では、精神疾患と判定される転換点とウェルビーイング状態(心理的なフローリシング)と判定される転換点の2つが明らかになった。同時にウェルビーイングの10の構成要素として、有能感、情緒的安定、没頭、意義、楽観性、ポジティブ感情、良好な人間関係、心理的回復力、自尊心、活力があることを発見した。

医学モデルで状態を測定するために使われる指標として、抑うつ自己評価(CES-D)尺度、機能の全体的評定(GAF)尺度がある。


快楽心理学

ウェルビーイングは、ある瞬間に快楽を感じていると考えることもできる。

ダニエル・カーネマンは、人間の意志決定のモデルを考察するに当たり、感情と合理的判断の2つを考え、人間の判断が必ずしも合理的であるとは限らず、寧ろ感情に左右されることを論証した。快楽心理学について研究を深めた。カーネマンの有名な法則に、ピークエンドの法則がある。この法則は、あらゆる経験の快苦の記憶は、ほぼ完全にピーク時と終了時の快苦の度合いで決まるという傾向のことである。


主観的ウェルビーイング

ウェルビーイングをある瞬間の快楽の体験と考えることも可能な一方で、より包括的、継続的、持続的な心理状態をウェルビーイングと考えることもできる。

主観的ウェルビーイング(SWB, Subjective Well-Being)はこうした考えを取り入れたものである。通常、オンライン又は紙の質問票を用いて、対象者はこれに回答する形式が多い。回答の時機には、ランダムな時間に回答を促す経験サンプリング法、ある特定の時機に合わせて回答を促す日誌法がある。

主観的ウェルビーイングを測定するために様々な質問票が開発されている。以下はその一部である。


エウダイモニア(持続的幸福)的心理学

エウダイモニアとは、ギリシャ語で「幸福」を意味する。ウェルビーイング状態を一時的な感情の経験と考えることもできるが、一時的な感情だけで幸福な状態と考えるのは難しい。寧ろ、幸福な感情を感じる要因を考えるのが、エウダイモニア的心理学である。即ち、没頭、活動の意義、人間関係、能力の発揮といったポジティブ感情を感じる原因に注目するのがこの方法論である。

リチャード・ライアン(Richard Ryan)とエドワード・デシは自己決定理論(Self-Determination Theory、SDT)を提唱した。自己決定理論は、動機付けに対して、3つの状態、1.動機づけなし、2.外的動機づけ、3.内的動機づけに別け、特に3.内的動機付けについて強い自己決定感があるという理論である。但し、本人の考え方によって、1から2に、2から3に遷移することもある。内発的動機づけと自己決定感がある人のウェルビーイングに大きく影響するという考え方は、システム設計の要点の一つとなる。(》参考1, 》参考2)


ポジティブ心理学

現在のウェルビーイング状態に対する心理学の主要な考え方は、感情とその背景の両面でバランスをとるものになっている。代表的なものが、ポジティブ心理学である。

ポジティブ心理学の推進者であるマーティン・セリグマン(Martin Seligman)は、PERMAモデルを開発した。PERMAとは、ポジティブ感情(Positive emotions)、没頭(Engagement)、関係性(Relationships)、意義(Meaning)、達成(Achievement)のことである。

》ポジティブ心理学/PERMAについては稿を改めたのでそちらを参考にしてほしい。


情動能力: EI, Emotional Intelligence

ウェルビーイング状態を考えるとき、一時の感情だけではなく、人生の意義や動機付け、周囲との関係性も重要である。前述の通りである。情動知能は、周囲との関係性をうまく作れる人間の能力を測定する。

情動知能はジャック・メイヤー(Jack Mayer)、デヴィッド・カルーソ(David Caruso)、ピーター・サロベイ(Peter Salovey)らの研究(*29, 30)によってはじまり、ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)によって発展した。

測定方法として、有名なものにMSCEIT(Mayer-Salovey-Caruso Emotional Intelligence Test)がある。


以下のテストは、人々に対する親しみやすさを重視しているようだが、 理論的な検証がなされているかは不明である。参考までに掲載する。


生物学・脳神経科学モデル

最後に、前述のような人間の心理的な状態や働きを考察の対象から外し、それらに伴う外面的な変化を分析する生物学・脳神経科学モデルを紹介する。このモデルでは、人間のウェルビーイング状態がなんらかの生物学的、生理学的、脳神経科学的変化をもたらすと考え、この変化を抽出する。主だった指標として、脳波記録(EEG)、筋電図検査(EMG)、皮膚コンダクタンス、呼吸、心拍を使ったシステムがある。また、磁気共鳴機能画像法(fMRI)を使った研究もある。生物学・脳神経科学からは離れるが、人間の表情や声の調子、人の振る舞いを解析し、ウェルビーイング状態を検出するシステムにも可能性がある。

ユーザの感情を識別し、フィードバックを行う仕組みを、アフェクティブ・コンピューティング(affective computing)と呼ぶ。アフェクティブ・コンピューティングについては、以下の Naverまとめの記事が良くまとまっている。


PERMA / ポジティブ心理学: ウェルビーイングの状態とは?